この記事を書いた人:日本ソルトコーディネーター協会代表理事青山志穂
この記事は2017年に日本経済新聞に寄稿した内容を2024年最新版として加筆修正した内容になります。
目次
塩の味の違いは原料と製法のかけ算で決まる!
多くの人が単純に「しょっぱい」と認識している塩ですが、その味わいは実は多層的です。
「塩がしょっぱいのは当たり前」と感じるかもしれませんが、実は塩の世界にはもっと多彩な風味が存在します。
その多彩な風味、味わいの違いは塩の原料と製法の掛け算で決まってくるのです。
今日は塩の多様な味わいとその背後にある要因をご紹介しましょう。
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塩の味の違いは原料で大きく異なる
塩を原材料別に分類すると大きく分けて次の5つに分けることができます。
- 海水塩
- 岩塩
- 湖塩
- 地下塩水塩
- 再生加工塩
塩には、様々なタイプが存在します。
海水から作られる「海水塩」、地殻変動で地中に埋もれた海水が結晶してできた「岩塩」、塩水湖から採取される「湖塩」、地下水から作られる「地下塩水塩」、そして再製加工された「再製加工塩」です。
これらは元を辿ればすべて海水が源であり、基本的には「海の結晶」と呼べるものです。
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ミネラルが生み出す多様な味わい
海水には地球上に存在する多くの元素が含まれています。
海水の主な成分は次の通りです。
- ナトリウム:約78%
- マグネシウム:約16%
- カルシウム約4%
- カリウム:約2%
- 微量ミネラル:約0.3%
主要ミネラルの味の特徴は以下の通りです。
- ナトリウム:しょっぱさ
- マグネシウム:苦味やコク
- カルシウム:甘味
- カリウム:酸味
- その他の成分:雑味
これらミネラルのバランスが塩の味を大きく左右しますが、このミネラルをどのような分量で構成するかというのは、製法に大きく関係しています。
岩塩の場合は、もともとの構成配合に依存する形になりますが、それ以外の塩は天日塩であろうが、釜炊きで作られた塩であろうが、製法次第で塩に含まれるミネラルの含有量をコントロールすることが可能なのです。
この記事では次の2つの塩を例に解説してみましょう。
日本で一番認知度が高い塩と言えば「食塩」ですよね。
「食塩」と、かつてミネラルの含有数が世界一としてギネスに認定された「ぬちまーす」のミネラルバランスを比較して、味の違いについて解説してみたいと思います。
「食塩」は日本塩事業センターが作っているお塩で、日本の海水を原料に作られています。
イオン交換膜というフィルターを通すことで塩化ナトリウム以外のミネラルを除去しており、塩分相当量は99%以上となっています。
ですから、苦みやコクを出してくれるマグネシウムや甘味を演出するカルシウム等がまったくと言っていいほど含まれていませんから、「食塩」という塩の味はしょっぱいということになります。
それに対して「ぬちまーす」の食塩相当量は73.34%となっていて、約27%がナトリウム以外のミネラルとなっています。
その中には、カルシウム、マグネシウム、カリウム等が含まれていて、しょっぱさの元になるナトリウム以外のミネラルが豊富なことから複雑な味わいを醸し出します。
このように、同じ海水を原料にした海水塩であっても、製法の違いでミネラルバランスが違ってきますから味に大きな違いが出てくるというわけです。
たとえば同じ場所で海水を汲み上げてきて、同じ生産者が製造しても、製法が異なれば、できあがる塩に含まれるミネラルのバランスも、結晶の形も、大きさも、すべて異なるものを作り出すことが可能だということです。
ナトリウム純度が高いしょっぱさを追求した塩を作ることもできますし、海水の成分をほぼそのまま残したような多種多様なミネラルを残した深みのある味わいやしょっぱさを抑えた塩を作ることもできます。
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塩の味の違いを簡単に見分けるおすすめの方法
先述したように、食塩相当量によってしょっぱさが強い塩、まろやかな塩という感じで、塩の味わいの特徴が違ってきます。
そのため、どの塩を選ぼうか迷っているときは、パッケージの裏面に記載されている100g中の食塩相当量をチェックするのがおすすめです。
食塩相当量が90%台のものと、90%以下のお塩では明らかに味わいが違います。
食塩相当量が90%以下の塩を選ぶとその違いをはっきりと感じることができるはずですから、ぜひ一度、ナトリウム以外のミネラルが豊富なお塩を試してみてください。
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結晶の形状と粒の大きさが影響する味の特性
塩の味の違いを決める要素の一つとして塩の形、結晶の形も大きく影響してきます。
塩の結晶の形もまた、製法によってコントロールできるのです。
塩の結晶は次の8種類あります。
①立方体 | |
②凝集晶 | |
③フレーク | |
④パウダー | |
⑤顆粒 | |
⑥トレミー | |
⑦球状 | |
⑧粉砕 |
このように塩は多様な形状に分かれ、これが塩の溶けやすさや口当たりに影響します。
例えば、フレーク状やピラミッド状の塩はカリカリとした食感が楽しめ、パウダー状の塩はすぐに溶けてしまいます。
また、粒の大きさによっても、塩味の強さと感じるタイミングが変わります。
これが塩の味の違いに影響しています。
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岩塩だけはミネラル成分をいじれない
岩塩は長い年月をかけて海水が結晶化したものです。
結晶化する過程で、成分によってある程度層が分かれて結晶化していきます。
採掘業者さんたちは、その中のナトリウム層を狙って採掘・抽出していきますから、岩塩鉱山から算出される岩塩には、ナトリウム以外のミネラルをほとんど含まず、ナトリウム構成比が高い傾向があるというのが基本的な特徴となります。
基本的に岩塩は採掘されたままの状態で粉砕して販売されています。
※近年では、地上から岩塩層に穴を掘って真水を注ぎ、溶かしてから吸い上げ、地上で結晶化された岩塩もあります。
※バルセロナピンク岩塩のように、カリウムを多く含む層を採掘することで、塩分相当量が71.4%という構成比率で、ナトリウム以外のミネラルが豊富な塩もあります。
海水塩では、さまざまなミネラルを含む海水を濃縮して結晶化させていくので、岩塩に比べるとナトリウム以外のミネラルも含みやすい傾向があります。
たとえば、しっとりしている塩はマグネシウムを中心としたにがりを多く含んでいたります。
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塩の味わいは食材との相性にも影響される
先述したように、塩の味わいの違いは、原料と製法に大きく左右されます。
このことから、それぞれの塩に相性が良い食材というものも、違ってくるのは当然のことです。
食材に合う塩を考えるときに基本となるのは「同化」「対比」「抑制」の3つ効果です。
これは、塩選びだけではなく、食材と食材の相性を考える時にも使える裏技的知識なのでぜひ覚えておくと便利です。
同化効果とは?
「同化」とは、同じ特徴を持つ2つの食材を合わせることで相乗効果を発揮させることです。
味の同化効果は、旨味や甘味でよく起こります。
有名な例だと、旨味成分のグルタミン酸とイノシシ酸を合わせると美味しくなるというやつです。
「かつおだしと昆布だしを合わせるとうまみが濃くなる」と言われていますよね。
これを塩に当てはめて考えると、苦みのある食材にはマグネシウムが多く含まれる苦みのある塩を使ってあげると、同化作用によってうまみを強く感じることができます。
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対比効果とは?
対比効果とは、簡単に言えば対極にある味わいを少量加えることで、片方の味の特徴をより際立たせることです。
以下のような組み合わせが一般的に知られていてよく目にすると思います。
- チョコレートに塩
- スイカに塩
- ぜんざいに塩
甘さと対極にある塩味を加えることで、甘さが引き立ちますよね?
ロイズのチョコチップスは、甘さとしょっぱさの対比が受けて大ヒット商品になりました。
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抑制効果とは?
抑制効果とは、食材の持つ味の特徴を抑えるために塩を加えるというものです。
抑制効果が起きやすいのはしょっぱさと酸味、しょっぱさと苦味の組み合わせです。
酸味や苦味はしょっぱさを加えることで弱くなるという特徴があります。
当然、その逆も同じ効果があります。
具体的な例だと、塩コーヒーを挙げることができます。
酸味と苦味の強いコーヒーに少量の塩を入れると、酸味と苦味が抑制され、ミルクをいれたようなまろやかさに変化することで根強い人気がある飲み方です。
塩コーヒーについて解説した動画はこちら
食材の特徴と合う塩を選ぶことの重要さ
食材と塩との相性を考えるときに重要のは、先述した3つの効果だけではなく、食材の特徴と塩の特徴の相性も重要になります。
- 食材の味わいが濃いのか淡泊なのか?
- 食材の食感は柔らかいのか弾力があるのか?
- 食材の口溶けは早いのか遅いのか?
- 塩の塩味は強いのか弱いのか?
- 塩の粒は大きいのか小さいのか?
これらの相性を考慮して「合う塩」というものが決まってきます。
これをわかりやすく解説した図が次のマトリックス表です。
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牛肉・マグロ・カツオなどの赤身の肉や魚に合わせる塩の特徴とは
牛肉やマグロ・カツオなどの赤身の肉や魚は、食材そのものの味が濃く、そしてその多くは酸味を含んでいるという特徴があります。
そのため、塩を選ぶときのポイントは、次の通りです。
- しょっぱさが強め
- 粒が大きめ
- 食感がある塩
鉄分が含まれて酸味がある塩を選ぶと最高の組み合わせと言えます。
ステーキ屋さんがピンク色の鉄を含んだ岩塩を多く採用しているのには、このような理由があるのです。
鶏肉・イカ・タイなどの白身の肉や魚に合わせる塩の特徴とは
鶏肉やイカ・タイなどの白身の肉や魚の味わいの特徴は、淡泊で、口の中で噛んでいくうちに甘味や旨味が出てくるということです。
この特徴と合う塩は次のような条件のものです。
- しょっぱさがまろやか
- 粒が少し大きめで噛んでいるうちに味が出てくるもの
これらの特徴を持つ塩は、口の中で味わいが出てくるタイミングが食材と合致しやすいので、最後までしっかり食材の味わいにアテンドしてくれるため相性が良いわけです。
白身魚に合うお塩をマニアックに解説した動画はこちら
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唐揚げやてんぷらなどの揚げ物に合わせる塩の特徴とは
揚げ物は噛んだ瞬間に口の中に油が広がります。
そのタイミングでしょっぱさが感じられる塩を選ぶと油感をさっぱり感じさせてくれます。
具体的には次のような特徴のお塩がおすすめです。
- 粒が大きい
- しょっぱさの強い塩
野菜やごはんなどの繊細で淡泊な食材に合わせる塩の特徴とは
野菜やごはんなどの繊細で淡泊な味わいの食材には、次のような特徴のお塩がおすすめです。
- しょっぱさがまろやか
- 馴染みやすく粒が細やかな塩
食材の本来の味わいを壊すことなく、引き立ててくれます。
おにぎりに合う塩について解説した記事はこちら
さいごに
塩を選ぶ際は、これらの特性を理解し、用途に合わせたものを選ぶことが大切です。
料理の種類によっては、特定の塩がその味を引き立てる可能性があります。
塩の世界は意外と複雑で、単なるしょっぱさだけでなく、料理の深みを加えるための様々な要素が考慮されています。
次回塩を選ぶときは、その多様性を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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