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えっ、自然塩・天然塩って使っちゃダメなの?
「自然塩」や「天然塩」という言葉、皆さんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?
なんとなく体に良さそうで、ミネラルが豊富で、昔ながらの製法で作られていそうな――そんなイメージを持って購入している方も多いと思います。
でも、実はこの「自然塩」「天然塩」という言葉、今では表示や広告で使ってはいけないことになっているのです。
知らなかった、という方も多いはず。今回は、その理由と背景、そして代わりに使える新しい呼び方の提案までを、塩の専門家の視点からわかりやすくご紹介します。
「自然塩」「天然塩」ってどういう意味?
まずは「自然塩」や「天然塩」という言葉の一般的なイメージからおさらいしましょう。
これらの言葉が広く使われるようになった背景には、イオン交換膜を使って海水から塩化ナトリウムだけを抽出した「食塩」や、海外産の塩を原料とした「精製塩」との違いを強調したいという目的がありました。
「食塩」や「精製塩」は塩化ナトリウムの純度が非常に純度の高い塩です。
それに対して、昔ながらの製法で作られた塩で、「食塩」や「精製塩」に比べるとナトリウム以外のミネラル分が多く含まれている塩のことを、わかりやすく「自然塩」「天然塩」と呼ぶようになったのです。
どうしてそんな呼び方をしていたの?
日本では、塩は1905年から専売制度の対象となり、1971年から1997年まではイオン交換膜を使った製塩以外は基本的に禁じられていた時代がありました。
その後、塩づくりが解禁されたことで、小規模な製塩所が伝統的な方法を復活させ、塩づくりを始めました。
もちろん、「食塩」や「精製塩」も並行して製造され販売されており、その違いを消費者に伝えるために、伝統製法の塩を扱うメーカーは「自然塩」「天然塩」といった言葉を使い始めることとなりました。
いわば、“違いを伝えるための工夫”として生まれた呼び方だったというわけです。
でも今はNG!自然塩・天然塩はなぜ使えない?
そんな親しまれてきた言葉たちですが、現在は表示や広告に使うことが禁止されています。
その理由は、「誤認を与えるおそれがあるから」。
食用塩の表示ルールは、「食用塩公正取引協議会(略称:塩公取協)」という業界団体によって定められています。
この団体が発行しているガイドラインの中で、「自然塩」「天然塩」といった表現は使用禁止と明記されているのです。
理由は、「自然塩」や「天然塩」という言葉が、あたかもそれ以外の塩、つまり「食塩」や「精製塩」が不自然・不健康であるかのような印象を与えるから。
たしかに、そのような誤解を避けるためのルールではありますが……正直なところ、少し疑問も感じます。
呼び方禁止だけって、不親切じゃない?
一番の問題は、「ダメなら代わりに何て呼べばいいの?」が示されていないことです。
塩の製法や個性を伝えたいと思っても、「自然塩」「天然塩」がNG。
だけど代替語は示されていない……。
これでは、生産者も販売者も困ってしまいます。
もちろん、消費者だって「どれがどんな塩なのか」がますます分かりにくくなりますよね。
イメージ先行の誤解を避けたい気持ちはわかりますが、伝える手段まで取り上げられてしまうのは、いかがなものかと感じている人も多いのです。
新しい呼び方「クラフトソルト」という提案
そこで、私からの提案です。
それは――「クラフトソルト(Craft Salt)」という呼び方を広めていくこと。
「クラフトビール」や「クラフトチョコレート」などと同じように、職人の手仕事で丁寧に作られた、少量生産の個性ある塩という意味で使うことができます。
この呼び方には、以下のようなメリットがあります:
- 製法やこだわりを伝えやすい
- 海外でも通用する
- 「自然」や「天然」といった曖昧なワードを避けられる
- 職人や生産者の顔が見えるストーリーを伝えやすい
クラフトソルトという言葉には、「手間ひまをかけて丁寧に作られた価値ある塩ですよ」というメッセージが込められます。
まとめ:呼び方ひとつで伝わり方が変わる時代に
「自然塩」「天然塩」がNGワードになった今、伝え方を工夫することが求められています。
呼び方ひとつで、伝わる印象は大きく変わります。
でも、「伝えたいこと」は変わらないはず。
塩づくりに込められた想いやこだわりを、正しく、そして魅力的に伝えていくために。
これからは「クラフトソルト」という新しい表現で、塩の未来を一緒に語っていきませんか?