塩コラム

この記事を書いた人:日本ソルトコーディネーター協会代表青山志穂



スペインアニャナ塩田に行ってきました

2020年1月26日から約1週間、地産地消や地域活性化で世界的に有名なアルケッチァーノの奥田政行シェフと行くバスクツアーに参加してきました。

行程の中に7000年の歴史を誇るアニャナ塩田訪問を組み込んでくださるということで、これは行かないわけにはいかないな、と。

ということで、今回はアニャナ塩田についてご紹介したいと思います。

アニャナ塩田は世界最古の塩田

アニャナ塩田があるのはスペインのバスク州アラバ。

自治体の公式名称は「 Salinas de Añana (サリーナス・デ・アニャナ)」で、「salina」とはスペイン語で「塩」のこと。

地名に塩とつけられるほど、この地では製塩が盛んでした。

新石器時代から製塩が行われていたという遺跡も発掘されています。

最初に文献に現れるのは978年のことで、地下に埋蔵されている岩塩が伏流水で溶けて湧き出た塩水を土器で炊いて製塩が行われていました。

かつては土器で製塩を行っていた

原料となる塩水は水路によって各区画に運ばれていくのですが、水路に沈殿結晶した茶色と白の結晶を見るに、鉄やカルシウムを比較的多く含む原水のようです。

舐めてみましたが、塩分濃度1.5%程度と予測される非常に薄い塩水でした。

この薄い塩水から天日で塩を作るなんて、気の遠くなる作業です。。。

なぜなら、海水は塩分濃度3.4%。1tの海水からだいたい25kg前後の塩が収穫できます。

一方この地下塩水は、1tから10kg程度しか収穫できないのですから。

なかなか舐めるのに勇気のいる色でした

現在のような塩田が形成されたのは12世紀に入ってからで、約120ヘクタールにも及ぶ広大な傾斜丘陵地を切り開いて塩田が作られ、地下塩水を使った天日塩づくりが始まりました。

ドイツのザルツブルグ然り、塩の生産地が経済的に栄えるのは昔の世の常で、アニャナ塩田を中心にアルフォンソ1世の手によって町が設立され、経済的にも発展していきました。

しかし時は流れて20世紀半ばになると、大規模生産の塩が流入するようになり、効率の悪い塩田での生産は影を潜めるようになり、放棄され、塩田は荒れ果てる一方となりました。

「このままでは大事な文化遺産が滅んでしまう」という危惧を抱いた有志の手による嘆願が実を結び、1984年6月17日にはアニャナ塩田はスペインの重要文化財に指定されました。

それ以降、国が積極的な支援を行い、塩田の観光地としての開発と修復が進められています。

私たちが訪問した際にも、ガイドの女性が1時間かけてしっかり塩田の歴史や製法について説明をしてくれました。(※要予約なので事前に問い合わせを)

現地ガイドさん。塩田の区域には釘が一切使われていないそうで、鍵も木製なのでした

数ヶ月かけて濃縮・結晶させた塩は、いったん倉庫に集められ、10月頃に出荷の時期を迎えるまで寝かせます。

特に何ヶ月寝かせるという規定があるわけではないそうで、「出荷(検品)までここに置いておく」ということでした。

いい、そういうちょっとファジーなところも好きです。

ここで寝かせたあと、検品作業の部屋に移されます

観光地として多くの観光客を向かい入れるだけでなく、事業としての製塩もしっかり行っており、年間約80t~100tの塩が生産されています。

バスク周辺のスーパーマーケットやマルシェでも販売されており、海外にも輸出。

その収益はすべて渓谷の復旧と保全に役立てられているそうです。

スペインミシュラン三つ星レストラン御用達ソルトとして専用区画がある

個人的にとても興味深かったのは、ある区画の塩田には「○○のレストラン用」というように看板が立てられていたこと。

「Arzak」「 AZURMENDI 」などスペインの誇るミシュラン3つ星レストラン などの名前がずらりと並んでいました。

後日、この2つのレストランにお伺いすることができたので「なぜこの塩を使っているのか」と聞いてみたところ、味がよいのはもちろんなのですが、国が誇るこの歴史ある塩田を守るという意味も含めて使用しているそうです。

日本にもこういう支援があればいいのに!

星付きレストランの名前がずらり

アニャナ塩田の塩を爆買い

そして、念願のアニャナ塩田に訪問できたテンションで、大量の塩を購入。

帰国してから計算したらなんと10kg分ありました。。。

あまりの買いっぷりに、紳士が持つのを手伝ってくれました

アニャナ塩田の塩の短評

さて、肝心の塩の味について。

「フィオール・ディ・サリ (塩の花)」は、フレーク状の結晶によるシャクシャクとした小気味のよい食感があり、適度なしょっぱさとほどよいうまみが特徴的です。

「サル・ミネラル(2番塩)」は、かどのないまろやなかしょっぱさとうまみがあり、余韻が長く喉の奥のほうにずーっとおいしい味が続きます。

希少性でいうと「フィオール・ディ・サリ」のほうが収穫量が少ないので高単価で取引されますが、日常的に使いやすいのは「 サル・ミネラル 」のほうかもしれません。

ちなみに、夏場は塩水を使った足湯?などもあるそうなので、ぜひアルバ地方に行った際には、少し足を伸ばしてこの悠久の歴史を誇る塩田を訪れてみてください。

足湯スペース。冬期は残念ながらお休みです。